中小企業の社内文書整備と経費精算の運用支援に携わってきた実務経験から、すぐに使える接待交際費の「精算書」と「申請書」のExcelテンプレートを紹介します。
書き方のコツ、税務上の取り扱い、提出から承認までの流れもあわせて解説します。
・接待交際費の精算書/申請書テンプレート(Excel)
・記載例付きの書き方と必須項目チェック
・税務上の注意点(損金算入の考え方・証憑の扱い)
・社内承認フローと電子申請への落とし込み
接待交際費精算書・申請書とは?
社内での位置づけと役割
接待交際費に該当する費用を、目的・参加者・金額と共に記録し、レシートや領収書とセットで申請・承認・計上するための書式です。費用の妥当性と業務関連性を第三者が判断できるようにします。
経費精算書との違い
一般の経費精算と異なり、目的・対外者の属性や人数・一人当たり金額など、税務上の判断に必要な情報を提示します。
接待交際費精算書テンプレート(Excel無料ダウンロード)
単発の接待用申請書テンプレート
複数回分の申請書テンプレート
事前承認用の申請書テンプレート
書き方の基本と記入例
交際費精算の実務で差し戻しになりやすいのは「日付・目的」「参加者情報」「金額按分」の3点です。監査・税務でも確認される項目なので、以下のルールと例に合わせて記入します。
日付・目的の正しい書き方
「いつ・誰に対して・何のため」を具体的に記し、業務との関連性が第三者にも伝わるようにします。
- 日付は西暦と時刻まで(例:2025/09/10 18:30〜20:30)
- 目的は「相手」「目的」「背景・成果」の3要素を含める
- 単なる懇親・私的用途に見える表現は避ける
・A商事 営業部との新製品共同販促の打合せ後、関係構築と次回提案調整のための会食
NG例
・懇親会/情報交換のみ/打上げ
【誰に対して】+【何のため】+【背景・成果】の順で記載
・B社 購買部との単価更改交渉の合意確認と継続取引の関係強化のため
参加者(社内外)の記載ルール
社外は会社名・部署・役職・氏名・人数まで、社内も部署・役職を含めて記録します。匿名にする場合も「業種・役職」までは残します。
- 社外:
会社名/部署/役職/氏名/人数(例:2名) - 社内:
部署/役職/氏名/人数 - 匿名化:
例「大手機械メーカー 営業部 課長 1名・担当 1名」
区分 | 会社・部署 | 役職 | 氏名 | 人数 |
---|---|---|---|---|
社外 | A商事 営業部 | 課長 | 山田 太郎 | 1 |
社外 | A商事 営業部 | 担当 | 佐藤 花子 | 1 |
社内 | 営業一課 | 課長 | 鈴木 健 | 1 |
社内 | 営業一課 | 主任 | 高橋 直 | 1 |
・「先方数名」など人数のみの記載/会社名・役職なし
支出金額と割勘・按分処理
科目ごとに内訳を分け、総額・一人当たり金額・社内外の負担関係を明確にします。按分の根拠は備考に残します。
- 科目内訳
飲食代/交通費/手土産/会場費/その他 - 一人当たり
合計金額÷参加者総数(税・サービス料込で計算) - 先方負担・クーポン等がある場合は差引根拠を明記
科目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
飲食代 | 33,000円 | コース税込・サービス料込 |
タクシー代 | 2,000円 | 会場→駅 |
手土産 | 3,000円 | 取引先担当者へ |
合計 | 38,000円 |
参加者:社外2名・社内2名(計4名)→ 一人当たり 38,000円÷4=9,500円
先方が交通費1,000円を負担した場合:会社負担 37,000円(備考に「先方交通費1,000円負担」)
・合計と領収書金額が一致しているか
・科目と目的の整合(手土産=贈答、飲食=接待)に矛盾がないか
・備考に按分根拠(人数・先方負担・割引)を残したか
税務上の注意点(経費計上と損金算入)
接待交際費は「どの費用区分か」「損金算入の可否・限度」「保存要件」の3点で判断します。まず定義を押さえ、広告宣伝費・会議費・福利厚生費との境界を確認し、最後に証憑と承認の整合性をチェックします。
接待交際費の定義
取引先等に対する接待・供応・慰安・贈答のために支出する費用を指します。次の考え方で区分します。
- 不特定多数への宣伝目的の費用(例:名入れカレンダー等)は広告宣伝費
- 従業員の慰安や福利のための費用(一定要件を満たす社内行事等)は福利厚生費
- 取引先等との飲食・贈答・接遇は交際費等に該当
一定の飲食費が要件を満たす場合は交際費等から除外される取扱いがあります(人数・単価・保存書類の要件あり)。最新の金額基準・適用時期は制度改正を確認してください。
損金不算入となるケース
交際費等は法人区分により損金不算入の取扱いが生じます。代表的な注意点は次のとおりです。
- 業務関連性が薄い支出や私的な支出は損金算入不可
- 過度・高額な接待、金券・現金等の贈与は要注意
- 社内のみの飲食は原則福利厚生費の検討対象(交際費等ではない)
- 中小法人・大法人で交際費等の損金算入特例・限度の扱いが異なる
自社が中小法人か否かを年度当初に判定し、適用できる特例(定額控除・飲食費の一定割合算入など)を会計方針に明記しておくと判定が安定します。
税務調査で確認されやすいポイント
接待交際費の調査では、次の4点が一貫しているかを確認します。テンプレートにしておくと効果的です。
- 目的の具体性
誰に・何のため・どの成果に繋げるか - 参加者の特定
社外は会社・部署・役職・氏名、社内も部署・役職・人数 - 一人当たり金額の根拠
人数×単価の計算欄、割引・先方負担の明記 - 証憑と承認の整合
領収書原本、インボイス登録番号、承認ルートの記録
支出シーン | 典型科目 | 交際費該当 | 保存の要点 |
---|---|---|---|
取引先との会食 | 交際費等 | 原則○ | 目的・参加者・一人当たり金額・領収書・インボイス番号 |
社内打合せの軽食 | 会議費 | × | 会議議題・参加者・軽微な飲食である根拠 |
名入れカレンダー配布 | 広告宣伝費 | × | 不特定多数向けの配布記録 |
社員旅行・社内行事 | 福利厚生費 | × | 社内一律・通常水準・実施要領の保存 |
手土産の贈答 | 交際費等 | ○ | 贈答先・目的・金額の相当性 |
目的(定型文+自由記述)
参加者一覧(社外・社内の区分必須)
一人当たり自動計算欄
インボイス登録番号欄
領収書添付チェックもつけておくと差戻しが減ります。
提出・承認フローの流れ
接待交際費は手続きがあやふやだと差戻しや税務リスクになります。社内規程に沿った標準フローと承認基準を明文化し、テンプレートに埋め込んで運用してください。
社内規程に沿った運用方法
事前申請→実施→精算(証憑添付)→上長承認→経理確認→計上の順で統一します。基準となる金額、提出期限、差戻し条件をテンプレート内に明記します。
- 事前申請(目的・参加者・概算費用・日程)
- 実施(領収書・参加者記録の確保)
- 精算提出(Excel入力・証憑添付・一人当たり金額自動計算)
- 上長承認(目的妥当性と参加者整合の確認)
- 経理確認(区分判定・インボイス登録番号・按分根拠の確認)
- 会計計上(科目・プロジェクトコード・月次締め反映)
金額帯(例) | 承認者 | 必要証憑 | 提出期限(例) |
---|---|---|---|
〜3万円 | 直属上長 | 領収書原本、参加者一覧 | 実施後5営業日以内 |
3万〜10万円 | 上長+部門長 | 上記+目的詳細(定型文+自由記述) | 月末締翌3営業日 |
10万〜50万円 | 部門長+管理部門 | 上記+稟議番号 | 月末締翌3営業日 |
50万円超 | 役員承認 | 上記+見積等の妥当性資料 | 個別期限を指定 |
・金額帯で承認欄を自動的に表示
・提出期限を表示+期限超過で警告色に変更
・必須項目は未入力でエラーにする
電子申請システムとの連携例
Excelテンプレートを原本とし、ワークフローへ添付して承認ログと証憑を一元管理することもできます。
- Excel入力と自動計算完了
- 申請フォームにExcelと証憑画像・PDFを添付
- 承認ルート自動判定(金額帯・部門コードで分岐)
- 承認ログ・差戻し理由をシステムに保存
- 会計システムへ仕訳データ連携(CSVまたはAPI)
よくあるミスと対策
差戻しの多くは「証憑」「参加者情報」「計算」のどれかに起因します。
領収書の添付漏れ
- 起きやすい原因:会計レシートのみで宛名・但書がない、画像が不鮮明
- 予防ルール:会計時に宛名・但書を記載、撮影は文字判別できる解像度で実施
- 対処・是正:店へ但書追記を依頼、電子データは再撮影しトリミングで不要部分を削除
- テンプレート改善:領収書有無のチェック欄、未チェック時は提出不可に設定
参加者肩書の不備
- 起きやすい原因:人数のみ記載、会社名・部署・役職が抜ける
- 予防ルール:社外は会社名・部署・役職・氏名、社内も部署・役職を必須化
- 対処・是正:名刺画像や来客記録を添付し、匿名化時も業種・役職まで記入
- テンプレート改善:社内外の区分選択、役職・人数のデータ検証、未入力セルの警告
金額の端数処理ミス
- 起きやすい原因:サービス料や割引、個別交通費の計上順序が曖昧
- 予防ルール:小計欄を科目別に分離し、割引・先方負担を差引欄で明示
- 対処・是正:一人当たり金額は合計÷人数で自動計算、手入力は不可にする
- テンプレート改善:数式セルの保護、差引根拠の備考必須、丸め規則の注記を表示
科目 | 金額 | 差引・割引 | 備考 |
---|---|---|---|
飲食代 | 33,000円 | 割引1,000円 | コース税込・サービス料込 |
交通費 | 2,000円 | 先方負担1,000円 | 会場から駅まで |
手土産 | 3,000円 | なし | 先方担当者へ |
合計 | 38,000円 | −2,000円 |
・領収書の宛名・但書は記載済みか
・参加者の会社名・部署・役職・人数は埋まっているか
・一人当たり金額と合計が一致しているか
・按分・割引・先方負担の根拠が備考に残っているか
関連テンプレートと活用例
旅費・交通費・雑費は経費精算書で集計し、接待交際費は本テンプレートで管理します。
よくある質問(FAQ)
まとめ
今回は接待交際費のテンプレートを紹介しました。申請書をダウンロードし、社内規程・承認基準・提出期限をテンプレートに追記して運用開始してください。
金額上限、参加者情報、インボイス登録番号、電子保存ポリシーを反映させ、監査対応と実務効率を両立させてください。