経緯報告書は、トラブルや業務上の問題について「何が起き、どのように対応したか」を客観的・時系列に整理し、関係者や第三者に正しく共有するための文書です。
顛末書や始末書のように「謝罪」や「処分理由」を示すための文書ではなく、あくまで事実と対応を中心にまとめる点が特徴です。
このページでは、実務経験に基づく経緯報告書の書き方のポイントと、社外提出にも使える<無料の時系列報告書テンプレート(Word/Excel)>を用意しています。社内版と書き分けの要点も解説します。
実務者コメント
社内トラブルの報告やクレーム処理の過程で、再発防止策まで丁寧に整理した経緯報告書が必要になることが多く、実際に作成や添削に関わってきました。今回紹介するテンプレートはそうした現場ニーズをもとに作成しています。
経緯報告書とは?意味と用途
経緯報告書は、トラブルやミスなどの問題が発生した際に「何が起き、どのように対応したか」を時系列で整理し、社内外へ正しく共有するためのビジネス文書です。
経緯報告書の定義
経緯報告書の役割は、次のようにまとめられます。
- トラブルや不具合の「発生から解決までの流れ」を客観的に記録
- 原因分析や再発防止策を明確にし、関係者へ周知する
- 事実を整理することで、社内改善や顧客対応に活用できる
顛末書・始末書との違い
経緯報告書はよく顛末書・始末書と混同されますが、表のように目的が異なります。
文書名 | 目的 | 特徴 |
---|---|---|
経緯報告書 | 事実経過と対応内容を整理 | 謝罪や処分を目的とせず、事実共有が中心 |
顛末書 | 責任や処分の根拠を示す | 会社・上司への報告に使用 |
始末書 | 本人の謝罪と反省を記録 | 処分や戒告とセットで提出されることが多い |
経過報告書との違い
経過報告書も似ていますが、使用するタイミングと内容が異なります。
項目 | 経緯報告書 | 経過報告書 |
---|---|---|
目的 | トラブルの経過・原因・対応・再発防止を総括 | 進行中の案件や対応状況を途中で共有 |
提出のタイミング | 事案が収束した後にまとめる | 事案対応の途中段階で随時報告 |
記載内容 | 事実経過・原因分析・改善策 | 現時点の状況・課題・次の予定 |
経緯報告書テンプレート【無料ダウンロード】
経緯報告書は、法的に決まったフォーマットはないためレイアウトを自由に作成することができます。ただし会社で経緯報告書の規定の書式がある場合はそれに従って作成してください。
テンプレートの特徴
このページの経緯報告書テンプレートは、Word/Excel形式です。
業務上のトラブルやミス、クレーム対応の「経過説明や対応経過」を整理するのに最適です。特に、取引先や上層部に「事実の流れ」を明確に示したい場面で活用されます。
登録不要・完全無料でダウンロード可能
A4サイズ・Word/Excel形式で印刷や編集がしやすい
時系列で記載できる構造のため、読み手にも分かりやすい
社内向け・社外向けどちらにも対応可能な汎用的フォーマット
原因分析・対応策・再発防止策などの項目を初期配置済み
会社ロゴ・印影・備考欄なども自由にカスタマイズ可能
テンプレートの主な記載項目と構成
経緯報告書のテンプレートには、問題の発生から対応、再発防止策までを論理的かつ時系列で記載できる項目があらかじめ用意されています。以下は主な構成項目です。
項目名 | 内容の説明 |
---|---|
【1】件名 | 例:「◯◯に関する経緯報告書」など明確なタイトルを記載 |
【2】発生日時・場所 | トラブルや問題が発生した日付・時間・場所など |
【3】発生事象の概要 | 何が起こったのかを簡潔に要約 |
【4】詳細な経緯 | 発生から現在までの流れを時系列で記載 |
【5】原因分析 | ヒューマンエラー・システムミス・連携不足などの要因分析 |
【6】対応内容 | 行った処置や関係者への連絡・修正対応など |
【7】再発防止策 | 今後の対策・チェック体制の見直し・教育など |
【8】作成者情報 | 所属部署・氏名・作成日など |
このような構成により、誰が読んでも理解できる報告書を短時間で作成できます。企業ごとの運用ルールに応じてカスタマイズしてください。
経緯報告書ダウンロード
汎用(社内向け)
社内向けの経緯報告書テンプレートです。社内向けなので、宛先と主文が社内用に特化されています。
社内でのトラブル
社内向けの経緯報告書テンプレートです。ネットワークエラーに関するサンプルの例文が記載されています。トラブルに時間的な経緯を書く場合には、時系列で問題と対応を書いていく方法もあります。
納品遅れ
社内向けの経緯報告書テンプレートです。納品遅れに関する経緯を報告するサンプルが記載されています。
商品の破損
納品した商品に破損があった場合の社外に対する経緯報告書の例文サンプルです。商品の破損に関する経緯や対応方法などを報告しお客様に経緯を報告します。
テンプレートのカスタマイズ例(業界別)
経緯報告書は業界や業務内容によって記載すべき内容が異なります。ここでは、代表的な「製造業」「IT業界」「営業」の3つのケースに分けて、具体的なカスタマイズ例を紹介します。
製造業向け
- 発生事象の概要:
機械の故障、製造ラインの停止、品質不良、納期遅延など具体的なトラブルを記載 - 詳細な経緯:
故障発生日時、影響範囲、修理依頼と復旧までの流れ、遅延した生産数や納品日変更などを時系列で - 原因分析:
設備の老朽化、作業ミス、材料不良、工程の不備など具体的原因に言及 - 対応内容:
修理や代替品手配、顧客への連絡、品質検査実施など - 再発防止策:
設備保守計画の見直し、作業手順の改訂、品質管理強化、定期点検の頻度アップなど
IT業界向け
- 発生事象の概要:
システム障害、サービス停止、バグ発見、セキュリティインシデント等を明記 - 詳細な経緯:
障害発生時刻、影響範囲(ユーザー数や機能)、原因調査の内容、復旧手順やパッチ適用の時間軸 - 原因分析:
ソフトウェアのバグ、設定ミス、サーバー負荷、外部攻撃などを詳細に - 対応内容:
障害対応チームの対応内容、通知・連絡状況、暫定対応および根本解決策 - 再発防止策:
監視システムの強化、リリース管理の見直し、脆弱性テストの実施、担当者教育など
営業向け
- 発生事象の概要:
納品遅れ、誤配送、クレーム、契約トラブルなど営業活動に関わる問題を記載 - 詳細な経緯:
営業担当者の対応経過、顧客からの指摘、社内調整や再交渉の流れを時系列で記述 - 原因分析:
在庫管理のミス、連絡ミス、取引先側の事情など関係者やプロセスごとに分析 - 対応内容:
謝罪・説明、代替品手配、スケジュール調整などの具体的対応 - 再発防止策:
情報共有体制の強化、社内連携の改善、顧客対応マニュアルの整備など
経緯報告書の書き方【基本構成】
記載すべき主な項目(件名・発生日時・経緯・原因・対応・再発防止策)
経緯報告書を作成する際は、以下の要素を意識すると、相手に伝わりやすくなります。
何が起きたのかを1~2行で簡潔にまとめます。
発覚から対応までの流れを、日付とともに整理します。
ヒューマンエラーやシステム不備など、発生原因を客観的に特定します。
実現可能な対策や今後の改善策を具体的に示します。
文章作成の注意点(客観性・時系列整理・再発防止の具体性)
- 主観や感情的な表現は避け、事実のみを記載する
- 「誰が悪いか」より「何が起きたか」を明確に伝える
- 原因や再発防止策は曖昧にせず、具体的に書く
NG例文と改善例(曖昧・責任転嫁・感情的表現の回避)
2025年5月10日、A社向けに商品Xを出荷する予定だったが、誤って商品Yを送付
発覚は同月12日で、原因は倉庫内の棚番号の誤認によるピッキングミス
直ちに正しい商品を再送し、在庫管理体制を見直した
経緯報告書の例文集【トラブル別サンプル】
実際のトラブルを想定した例文を参考にすると、経緯報告書の書き方が理解できます。ここでは代表的なケースごとのサンプル例文を紹介します。
誤出荷トラブルの場合
- 件名:【取引先名】向け誤出荷に関する経緯報告書
- 概要(1~2行):
【YYYY年MM月DD日】、【注文番号/案件名】において【正:商品X/誤:商品Y】を出荷した。 - 発生日時・場所:
【YYYY/MM/DD HH:MM】/【物流拠点・倉庫名】 - 関係者:
【出荷担当】【検品担当】【運送会社】【取引先】 - 影響範囲:
【数量/出荷伝票番号】【顧客影響(納期・業務)】 - 時系列:
- 【発生】YYYY/MM/DD HH:MM:ピッキング完了(棚番【◯◯】)
- 【発覚】YYYY/MM/DD HH:MM:顧客より誤品到着の連絡
- 【初動】YYYY/MM/DD HH:MM:回収・再送手配、在庫照合
- 【復旧】YYYY/MM/DD HH:MM:正品到着、顧客確認
- 原因分析:
一次原因【棚番確認漏れ】/真因【ラベル配置不備・ダブルチェック未実施】 - 対応内容:
正品の即時再送/誤品回収/在庫データ修正/顧客連絡 - 再発防止策:
棚ラベル再設計・Wチェック導入・出荷手順改訂(責任者【氏名】、期限【MM/DD】、KPI【誤出荷率0.0X%以下】) - 連絡・報告:
顧客【YYYY/MM/DD HH:MM】/社内(上長・品質)【YYYY/MM/DD】 - 添付資料:
出荷伝票、棚配置写真、在庫照合記録、顧客連絡ログ - 次回アクション:
【監査チェック】【1か月後の効果測定】
納品遅延の場合
- 件名:【取引先名】向け納品遅延に関する経緯報告書
- 概要(1~2行):
【YYYY年MM月DD日】納入予定の【製品名/数量】が【◯日】遅延した。 - 発生日時・場所:
【YYYY/MM/DD】/【工場・倉庫名】 - 関係者:
【生産計画】【購買】【物流】【営業】【顧客担当】 - 影響範囲:
【遅延数量】【顧客の稼働・イベント・販売計画】 - 時系列:
- 【原因発生】YYYY/MM/DD:設備故障/原料遅延/人員不足 等
- 【初動】YYYY/MM/DD:顧客へ遅延見込み連絡、代替案提示
- 【暫定対応】YYYY/MM/DD:部分出荷/優先ライン切替
- 【復旧】YYYY/MM/DD:全量納入完了
- 原因分析:
一次原因【機械故障】/真因【保全周期不適切・予備部品欠品】 - 対応内容:
工程リスケ、先行出荷、代替品提案、顧客合意の再スケジュール - 再発防止策:
保守計画見直し・予備部品在庫基準設定・ボトルネック工程の二重化(責任者/期限/KPI) - 連絡・報告:
顧客【定期報告:毎日16:00】/社内【日報・朝会】 - 添付資料:
生産計画表、障害報告、顧客合意書、出荷記録 - 次回アクション:
顧客レビュー】【納入安定化確認(2週連続)】
商品破損の場合
- 件名:【取引先名】納入品の破損に関する経緯報告書
- 概要(1~2行):
【YYYY年MM月DD日】納入分の【製品名/数量】のうち【◯点】に破損が確認された。 - 発生・発覚:
【輸送中/搬入時/検品時】に確認/【YYYY/MM/DD HH:MM】 - 関係者:
【製造】【物流】【梱包】【運送事業者】【顧客担当】 - 影響範囲:
【破損率%】【交換・再納入の所要日数】 - 時系列:
- 【出荷】YYYY/MM/DD:梱包仕様【材質・厚み・緩衝材】で出荷
- 【到着・検品】YYYY/MM/DD:顧客が破損を指摘
- 【初動】YYYY/MM/DD:代替品手配/回収/現状写真取得
- 【再納入】YYYY/MM/DD:代替品納入・顧客確認
- 原因分析:
一次原因【梱包強度不足】/真因【輸送条件と仕様のミスマッチ】 - 対応内容:
即時交換、運送業者と協議、ダメコン連絡、顧客補償(必要時) - 再発防止策:
梱包手順改訂・耐衝撃テスト導入・輸送チェックリスト整備(責任者/期限/KPI) - 連絡・報告:
顧客【経過共有:YYYY/MM/DD HH:MM】/社内【品質・物流へ報告】 - 添付資料:
破損写真、梱包仕様書、輸送記録、検品結果 - 次回アクション:
【パイロット便で再評価】【1か月後の不良率レビュー】
システム障害・ネットワークエラーの場合
- 件名:【サービス名】システム障害の経緯報告書
- 概要(1~2行):
【YYYY/MM/DD HH:MM~HH:MM】に【機能名/サービス全体】が停止/劣化し、【影響ユーザー数】【SLA影響】が発生。 - 発生・検知:
【監視(MM分で検知)/ユーザー通報】/【検知時刻】 - 関係者:
【SRE/アプリ開発/ネットワーク/CS/広報】 - 影響範囲:
【地域/機能/API】【エラーレート・遅延値】 - 時系列(MTTD/MTTR含む):
- 【発生】HH:MM:症状【5xx増/タイムアウト】
- 【検知】HH:MM:アラート発火(MTTD=◯分)
- 【初動】HH:MM:ロールバック/スケールアウト/迂回
- 【復旧】HH:MM:正常化(MTTR=◯分)
- 【事後】翌日:ポストモーテム作成・レビュー
- 原因分析(RCA):
一次原因【設定ミス/バグ/負荷超過】/真因【レビュー不備/テスト欠落/キャパ計画不足】 - 対応内容:
暫定対応【ロールバック等】/恒久対応【パッチ適用・設定修正・アーキ見直し】 - 再発防止策:
監視強化(指標追加)・リリースゲート見直し・負荷試験の定例化・権限分離(責任者/期限/KPI) - 連絡・報告:
顧客向け障害報告【公開URL/配信時刻】/社内報告【経営・関係部門】 - 添付資料:
メトリクス・ログ、変更履歴(ChangeSet)、ポストモーテム、コミュニケーションログ - 次回アクション:
【教訓の標準化】【訓練(GameDay)】【30日後の効果測定】
社内向けと社外向けの書き分けポイント
経緯報告書は、社内向けか社外向けかによって記載内容が変わります。以下はそれぞれの注意点です。
- 社内向け:
専門用語も使用可/原因と改善策を詳細に - 社外向け:
平易な表現を重視/顧客に誠意が伝わる説明を - 個人名・部署名は必要に応じて匿名化
作成時によくある失敗と回避策
作成時に注意すべき代表例です。
- 事実と意見を混同
→ 「発生事実」と「考察」を段落で分ける - 原因分析が浅い
→ 5W1Hや原因分析ツールを活用 - 時系列が曖昧
→ 発生日・対応日を必ず明記
よくある質問(FAQ)
経緯報告書と関連のあるビジネス文書
まとめ
・経緯報告書は、問題の発生から対応までを時系列で正確に伝える重要なビジネス文書
・Word形式テンプレートを無料提供。すぐに使えて編集も簡単
・経緯報告書は、顛末書や始末書のように謝罪・責任追及を目的とせず、事実経過を共有する文書
・顛末書=責任の明確化、始末書=謝罪・反省、経緯報告書=事実経過の整理、と用途を区別
監修・執筆者について
山中 恵(ビジネス文書専門ライター)
中小企業の帳票作成や業務マニュアル整備を10年以上支援。特に、トラブル対応文書(経緯報告・顛末書・始末書)の作成・テンプレート化を多数手掛け、業務の効率化と再発防止支援に貢献しています。