このページでは、WBSツールを現場で使いやすいかの以下の視点で比較します。
依存関係
負荷
コスト
AIサポート
他ツールとの連携
セキュリティ
筆者はPM/PMO支援の導入・運用設計経験にもとづき、同一条件のPoCで検証した手戻り率・作成時間・遅延検知の観点を採用。製品の機能差だけでなく標準化・教育・監査まで踏み込むのが本記事の方針です。
※ 価格・仕様は変動するため一次情報(公式)を優先し、更新履歴で差分を明示します。
WBSツールとは
WBSツールは、WBS(Work Breakdown Structure)を作成するときに使用すると便利なソフトウェアやアプリケーションのことです。WBSの意味は「作業を分解して構造化する」ことですが通常はWBSにスケジュール管理を含めたガントチャート型で運用する場合が多いです。
WBSツールは、その使いやすさや手軽さから、エクセルで作成するという企業もありますが、タスクの自動化やチームでの共有など、一歩進んだ使い方をしたいときには、エクセルでは機能が不十分な場合もあります。
WBSツールを選ぶ前に決めておくこと
まず下の4つを決めてから比較すると、スムーズに比較することができます。
1) プロジェクトの型と規模
- 型:単発 / 継続、受託 / 内製、ウォーターフォール / アジャイル
- 規模:人数(〜10 / 11〜50 / 51〜)、並行案件数、期間
- 外部協力:あり / なし(ゲスト権限・共有方法が必要?)
2) 管理レベル(どこまで厳密にやるか)
- 依存関係・クリティカルパス:必要 / 任意
- 変更管理・履歴(ベースライン差分):必要 / 任意
- 報告リズム:週次 / 日次(誰に・どの形式で)
3) 運用・統制の要件
- 権限設計:閲覧 / 編集 / 承認の役割分担
- セキュリティ:SSO・二要素・IP制限・監査ログの要否
- 社内規程:データ所在地 / SLA / バックアップ方針
4) IT環境(連携と導入形態)
- 連携:Teams / Slack / Jira / Backlog / Asana / Drive など
- 導入形態:SaaS / オンプレ(社内ポリシーに合うか)
- 実務前提:通知の出し方 / モバイル対応 / API・Webhook有無
評価の基準(機能要件マトリクス)
比べるときに迷わないように、見るポイントはこの6項目だけに絞ります。「必要かどうか」「どのくらい必要か」をはっきり決めましょう。
計画・構造(WBSの作りやすさ)
- 階層と親子関係は簡単に作れるか(ドラッグ&ドロップ)
- フェーズ・マイルストーンを標準で持てるか
- テンプレ適用と再利用ができるか(上書き/差分の扱い)
- 折りたたみ・検索・保存ビューで大きなWBSも見やすいか
- 最低限OK:階層+親子、検索、保存ビュー
スケジュール(ズレに強いか)
- ガント表示とクリティカルパスがあるか
- 依存関係を変えると、期日が自動調整されるか
- ベースライン(基準計画)と差分表示があるか
- 休日カレンダー/稼働日設定に対応しているか
- 最低限OK:ガント+依存+ベースライン
リソース(人の余力を見える化)
- 担当者ごとの負荷の山積み/平準化が見えるか
- 休暇カレンダーや稼働率に対応しているか
- スキル/役割でアサイン条件を表現できるか
- 過負荷時に代替案(担当/期限)が試せるか
- 最低限OK:山積み表示+休暇連携
コスト(予実とレポート)
- 見積工数と実績の差が追えるか(予実)
- 原価/EVMが必要なら対応しているか
- 入力が楽か(モバイル/ショートカット/CSV取込)
- 定例レポート/ダッシュボードを自動で出せるか
- 最低限OK:予実+簡単入力+基本レポート
AI活用(時短と品質の底上げ)
- 要件からWBSの叩き台を自動生成できるか
- 遅延の予兆や担当・期限の提案があるか
- 会議用サマリー(要約)を作れるか
- ベースライン差分のレビューを前提にできるか(人の最終確認)
- 最低限OK:WBS生成+要約(レビュー必須)
連携・拡張(広げやすさと安全性)
- CSV/Excelのインポート・エクスポートに対応しているか
- API/Webhookで他ツール(Jira/Backlog/Slack等)と繋がるか
- SSO/SCIM、二要素認証、IP制限、監査ログがあるか
- モバイルアプリと通知運用が使いやすいか
- 最低限OK:CSV+API+SSO(将来のロックイン回避)
用途別の最適解(シナリオ別)
使い方に合わせて、見るべきポイントを5パターンに整理しました。「重視点 → 必須機能 → 注意点」の順でサッと決められます。
小規模・まず定着(〜10人|ガント重視|低コスト)
直感的UI/軽さ/モバイル/シンプルな通知
必須機能:
依存関係・担当/期限・保存ビュー・基本コメント
注意点:
入力項目を増やしすぎない(PoCは2週間、機能は最小で開始)
中規模・本格運用(並行案件が多い)
自動波及・ベースライン・負荷の山積み・ダッシュボード
必須機能:
権限ロール/変更履歴/共通テンプレ/レポート自動化
注意点:
命名・レビューの標準化を先に決める(属人化を防止)
エンタープライズ(統制・監査・原価/EVM)
SSO/SCIM・監査ログ・データ所在地・SLA/BCP・原価/EVM
必須機能:
細粒度権限/API・Webhook/オンプレ or 両対応
注意点:
契約外縁(復旧・連絡体制)と他システム連携(ERP/HR)をRFPに明記
開発・アジャイル併用(Jira/Backlog/Git連携)
カンバン/スプリント/バーンダウン/Issue双方向連携
必須機能:
Epic↔WBS対応付け/リリース&テストのゲート管理
注意点:
二重管理を避けるルール(毎スプリントでWBSを同期・更新)
建設・製造・SI(工程厳格・現場運用)
承認フロー/文書版管理/写真・図面の紐付け/オフライン
必須機能:
外部協力のゲスト権限/位置情報(必要なら)/監査ログ
注意点:
現場モバイルの使い勝手(入力のしやすさ・閲覧権限)を実機で確認
無料WBSツール
無料で使えるWBSツールを紹介します。WBSを無料で使うためにはサーバーを用意したり、人数が限られていたりする場合があります。少人数なら無料という場合もあるので、まずは目的に合うか試してみるといいでしょう。
Redmine
https://www.easyredmine.jp/redmine-wbs-plugin
Redmineは、プロジェクト管理やチケットによって課題やタスクを管理できるオープンソースのプロジェクト管理ツールです。ブラウザで利用できるので、チームで進捗や課題の共有をすることも簡単にできます。
スケジュール管理はもちろん、WBS用のプラグインがあるのでマインドマップのように、プロジェクトの問題点をビジュアライズし、 実施予定の作業内容を表示が可能。
自分でサーバーを用意してインストールすればすべて無料で使用できます。
Planio
https://planio.farend.jp/contents/free/
Redmineは自分でサーバーを用意する必要があるのがちょっと...という場合は、環境がすでに用意されているクラウドタイプのPlanioが便利です。有料のサービスですが、1プロジェクト2ユーザーまでなら無料で利用できます。
Canva
https://www.canva.com/ja_jp/graphs/work-breakdown-structure/
WBSの作業分解図を書くためのツールとしてデザイン性に優れています。
Canvaから利用できるテンプレートを使用することで、1から作成する必要がなく工数を大幅に削減できます。シンプルなドラッグ&ドロップだけなので、複雑な操作は必要ではありません。
Lucidchart
https://www.lucidchart.com/pages/ja/examples/work-breakdown-structure-software
オンラインで利用できる図形描画ツールで1ユーザーなら無料で使用できます。
ガントチャートやスケジュール管理を構成する図がパーツとして揃っている上にテンプレートも豊富なので、作りたい作業分解図がドラッグ&ドロップで簡単に素早く作成ですます。
Time Krei
Time Kreiは有料のオンラインプロジェクト管理ツールです。お試し版として、1ユーザー1ヶ月間は無料で使用できます。Time Kreiの機能としては、プロジェクトの期間や受注金額、プロジェクトメンバーを決め、プロジェクトの進捗管理を行います。
個別のタスクとしてWBSを用いたスケジュールの管理ができ、プロジェクトの遅れなどを一目で確認できます。また、リソース管理表を用いて個人別にリソースの空きを確認し人員を適切に配置できます。
EXCELベースのWBSツール
WBSツールといえば、まだまだエクセルを使用するといく企業も多いです。やはり、手軽で大抵の企業のパソコンに入っているという強みが大きいです。
しかし手軽な反面、エクセルではスケジュールの引き直しや、人数の変更、プロジェクト遅延に対して表を作り直したり、修正に時間がかかったりとマイナスの面もあります。
ProjectExceller日本語版(フリー版)
エクセルベースのプロジェクト管理ソフトで、初心者からPMBOKに準拠したプロジェクト管理を目指すプロフェショナルまで、幅広いユーザーを想定しています。
90日間全機能が無料で期限が終了しても「フリー版」として一部の機能が使用できます。
エクセル版WBS作成ツール
https://www.mnztech.work/2019/02/wbs.html
フリーで使えるエクセル版のWBS作成ツールです。ツールバーから、1日単位のWBS、月単位のWBSの変更、表示期間のセル幅、月間表示の分割数などを調整できます。
EXCEL ガントチャート(vector)
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/personal/se490060.html
EXCELのVBAで動作するガントチャートアプリです。WBS(タスク名や工数)を入力することで、自動でガントチャートを作成します。
機能としては、ガントチャートの描画、スケールの随時変更、イナズマ線の作成、プロジェクトカレンダ設定、休日の設定、細かいチャートの設定や色や形なども変更できます。
AI×WBSツールの実務活用
WBSツールでは、AIを活用する場面もあります。特に、AIは「たたき台作り」と「差分チェック」で効果を発揮し、小さくPoCで試し、数値で効果を測り、再現できたら標準化する流れが安全です。
ユースケース(流れの基本)
- ① 要件・制約・成果物を箇条書きにする
- ② AIでWBSのたたき台を自動生成
- ③ 粒度を調整し、依存・担当・期限を確定
- ④ ベースラインを設定
- ⑤ 週次レビューで差分チェック
ポイントは「短いサイクルで回す」こと。作成時間を減らしつつ、認識合わせも早く進みます。
導入時の注意点
- AIは便利だが「依存抜け」「粒度バラつき」「矛盾」が混ざりやすい
- 成果物の網羅、担当・工数・期限の整合、クリティカルパスを必ず確認
- ベースライン → 差分レビュー → 修正のループを仕組み化
- 最終判断は必ず人間が行う
PoCでの評価方法
- WBS作成時間は短縮できたか
- レビューでの修正件数は減ったか
- 遅延検知は早まったか
- 定例資料の作成時間は減ったか
AIなし/ありを同条件で2〜3案件テストし、改善幅が再現できればプロンプトとレビュー観点を標準化して展開しましょう。
導入~定着の手順(HowTo)
WBSツールを導入する際は「小さく試す → ルール化 → 教育 → 運用 → 定着」の流れで進めるとスムーズです。移行時のつまずきやすい点も先に押さえておきましょう。
1) PoC設計(まずは小さく試す)
- 目的と評価指標を決める(例:作成時間、遅延検知の速さ)
- 対象プロジェクトを限定し、期間は4〜8週間が目安
- 関係者の役割を明確にする(作成/レビュー/承認)
- 毎週KPIを記録して改善点を洗い出す
2) 権限・命名・階層ルールの標準化
- ロール(閲覧・編集・承認)を決めて文書化
- 命名ルール(プロジェクト名、タスクID、成果物名)を統一
- 階層の深さや粒度も基準を作る
- ビューやダッシュボードのテンプレを配布し、見方を揃える
3) 教育・週次運用(更新ルールを徹底)
- 新人研修では「更新ルール」を最初に教える
- 担当や期限の変更、依存修正、コメント方法を統一
- 週次ミーティングでベースラインとの差分を確認
- 短時間で判断できる“定例の型”を作る
4) 移行の落とし穴(事前にテスト)
- 権限移管が漏れていないか
- 文字コード・タイムゾーンのずれがないか
- 通知やリンク再設定が正しく動くか
- 旧環境をどう保全・凍結するか、リダイレクトの有無
- 権限の棚卸しを必ず実施
テスト移行を必ず行い、可視性や通知の動作を実機で確認してから本番に切り替えましょう。
よくある失敗と回避策
WBSツールの導入で起きやすい失敗と、その回避方法をまとめました。
依存未設定でガントが機能しない
→ 対策:FS/SS/FFやリード・ラグを必ず設定。孤立タスクや循環依存を定例で確認し、受け入れ条件に含める。
負荷・原価が未整備で可視化が中途半端
→ 対策:担当・工数・稼働率・単価を入力しやすくする仕組みを作る。ダッシュボードで「稼働の赤信号」「採算の黄信号」を並べて表示。
権限・命名がバラつき属人化
→ 対策:ロール・命名規則・保存ビューを統一。逸脱は検出→是正の流れを作り、テンプレ強制や例外申請の窓口を一本化。
AI任せで検証不足
→ 対策:ベースライン設定 → 差分レビュー → 修正を定例化。手戻り率・作成時間を計測し、レビュー観点を固定して誰でも同じ指摘が出る状態を作る。
導入効果の測り方(ROI)
導入効果は「費用(TCO)」と「効果(時短・品質・再現性)」を数字で追跡すると説得力が出ます。
TCO(費用)と便益
- TCOに含めるもの:ライセンス・実装・教育・移行・運用保守・サポート
- 便益の例:WBS作成時間の短縮、遅延検知の早期化、定例資料の自動化、予実差の縮小、見積精度の改善
- 導入前4週間の数値をベースラインにし、導入後と同条件で比較
ダッシュボードKPI例
- 遅延率
- クリティカルパスの遅延件数
- ベースラインとの差
- 予実差(計画と実績のズレ)
- 稼働の過不足
- 遅延の要因別内訳
KPIは「行動に直結するもの」に絞り、通知疲れを防止。定義と集計単位をあらかじめ決めておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
まとめ
今回は、WBSツールの選び方やおすすめサービスについて紹介しました。
WBSツールを選ぶ際には、意図と要件に合う最小構成で小さく始め、短いサイクルで学びながら拡張するのが最短で始められて、失敗が少ないです。
エクセルでWBSを管理する場合には、メリットデメリットを考慮したほうがいいでしょう。WBSツールは多くの種類があって選ぶのが大変ですが、是非自分のプロジェクトに合ったものを見つけてください。